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佐世保簡易裁判所 昭和40年(ハ)22号 判決 1965年3月29日

原告 佐世保モデル百貨協同組合

被告 浜口政行 外四名

主文

(一)、被告浜口政行は原告に対し、金弐万七千参百弐拾円及び、

内金四千八拾円に対しては昭和三十九年七月三十一日以降

内金四千八拾円に対しては同年八月三十一日以降

内金四千八拾円に対しては同年十月一日以降

内金四千八拾円に対しては同年十月三十一日以降

内金参千円に対しては同年十二月一日以降

内金参千円に対しては同年十二月三十一日以降

内金参千円に対しては昭和四十年一月三十一日以降

内金弐千円に対しては同年三月一日以降

各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うことを命ずる。

(二)、原告の被告浜口政行に対するその余の請求はこれを棄却する。

(三)、原告の被告野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄、同河村弘に対する各請求は、全部これを棄却する。

(四)、本件訴訟費用中、原告と被告浜口政行との間において生じた分は、右被告の負担とし、原告とその余の被告四名との間において生じた分は、全部原告の負担とする。

(五)、この判決は原告において、金九千円の担保を供したときは、第(一)項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告代理人は、

請求の趣旨として、

被告浜口政行、同野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄は連帯して原告に対し、金二一、九二〇円及びこれに対する昭和三九年七月一日以降、被告五名は連帯して原告に対し、金五、四〇〇円及びこれに対する同年同月同日以降各完済に至るまで百円につき一日金一〇銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決及び担保を条件とする仮執行の宣言を求むる旨申立て、その請求の原因として、

一、原告は中小企業等協同組合法第三条第一号に規定された事業協同組合であつて、昭和三〇年三月二六日、同法第二七条の二第一項の規定に基いて、長崎県知事によつて、その設立が認可され、同法第三〇条の規定に基いて設立の登記がなされ、且つ同法第三一条の規定に基いて、昭和三〇年三月二八日、長崎県知事に対し、成立の届出がなされた協同組合である。

二、原告は、その地区を佐世保市の区域として、物品販売小売業を営み佐世保市内に店舗を有する小規模の事業者を以つて組合員とする。

しこうして、右組合員たる資格を有する者は書面により原告に加入の申込をなし、この申込を受けた原告は遅滞なく、理事会において、加入の諾否を決して、その旨を書面によつて右申込者に通知するということになつている。

三、なお、原告は会員を募集して、この会員に対し「割賦購入あつせん」を業として営むことを主たる目的とする法人である。

四、即ち、同一職場に勤務し、或いは永年その地区に居住し、お互に信頼し合う五人内外の者を一組として一団体を構成し、原告の会員に加入の申込をなさしめ、原告がこれを承認したものを以つて会員とする。

入会の手続としては、原告所定の申込書に団体の全員が、記名押印して原告に提出し、原告が全員に対してお買物用クーポン(以下単に「クーポン」という。)を交付したとき、その団体員全員について会員たる資格を生じたものとすることになつている。

しこうして、各会員は原告発行のクーポンによつて原告の組合員たる加盟店から物品を購入することができる。右「クーポン」は物品購入用の五〇〇円証券三枚と、一〇〇円の証券一二枚計一五枚金二、七〇〇円を一冊にとじこんだものであつて、原告は会員一名につき一ケ月に二冊までを交付することができるものとする。なお会員が、原告に加入後三ケ月を経過すれば、その該当会員は原告から特信券の交付をうけることができ、会員は、右クーポン又は特信券により原告の組合員である加盟店から、その販売にかかる物品を購入することができ、その売買契約は組合員である加盟店と会員との間において成立し、売買の目的物についての瑕疵担保は、右販売店が負担することとなる。

右購入会員の月額の購入高が五、〇〇〇円以下の場合には三回の分割払、金五、〇〇〇円を超える場合には五回の分割払とする。即ち会員が物品を購入した翌月、右会員が雇主から給与の支払を受ける日に、会員の構成する団体の代表者(この代表者も原告の会員である。)が、会員においてその月に支払うべき賦払金(即ち購入物品代金の三分の一又は五分の一の額であつて、端数があるときはその端数額を第一回の賦払金額に加える)を取纒めておき、原告が、これを取立て集金する。「特信券」は会員が、一ケ月に購入金額七、〇〇〇円以上三〇、〇〇〇円まで(クーポンによる購入額をも合算する)の物品を、原告の組合員である加盟店から購入することができるもので、一〇回払い賦払とする。

一方、原告の組合員である加盟店は、原告の会員に対し、クーポン又は特信券により物品を販売したときは、その代金の全額に相当する金員の支払を原告に求め、原告は販売した月の翌月一五日に、右代金全額に相当する金員を右組合員に支払うものである。

なお一団体を構成する会員は、原告に対する右賦払金支払義務につき、連帯債務を負担することに、原告と会員との間において締結した会員規定により約定されている。且つ会員が原告に対する賦払金の支払を、所定期日に怠つたときは、会員は割賦支払の期限の利益を失い、未払残額を原告が一時に請求しても、会員は異議を述べることができないことに、前記会員規定において約定されている。

また、追加会員となろうとする者は、申込書に代表者と共に連署して入会手続をとることができる。この者が原告の承認を得て原告の会員として加入したときは、その追加会員が、クーポン又は特信券により物品を組合員から購入することによつて、原告に対して負担する賦払金支払義務について、その会員の属する団体の全会員が相互に連帯債務を負担すること、また所定の支払期日に、その追加会員が賦払金の支払を怠つたときは、割賦支払の期限の利益を失い、未払残額を原告が一時に請求しても異議を述べることができないことに約定されていることは前同様である。

なお会員は賦払金の支払を遅滞した場合は、一〇〇円につき一日金一〇銭の割合による遅滞損害金を附加して支払うべき旨、前記会員規定において約定している。

以上のとおり、原告が営む目的事業は割賦販売法第二条第三項に規定する「割賦購入あつせん」に該当するものである。

五、訴外不二産興株式会社佐世保営業所に勤務する荒石忠雄外九名(この中には、被告野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄を含む)が一団体を構成して、訴外荒石忠雄を代表者と定めて、原告に対し、原告の会員として加入の申込をなし、原告から昭和三八年一〇月一五日、クーポンの交付を受けて会員となり、右被告等の団体会員が、原告に賦払金を支払うべき日は、購入日の翌月以降毎月の二八日とし、支払場所は佐世保市上京町六三番地(武富ビル内)不二産興株式会社佐世保営業所とすることに約定された。

その後同年一一月七日、被告浜口政行が、前記団体の追加会員として、代表者である荒石忠雄と共に連署して入会手続をとり、原告によつて追加会員として加入が認められ、即日クーポンの交付を受けたが、同被告が原告に賦払金を支払うべき日は、購買日の翌月以降の毎月三〇日とし、支払場所は前同様に約定された。

さらにその後、昭和三九年五月七日被告河村弘が、前記団体の追加会員として、代表者である荒石忠雄と共に連署して入会手続をとり、原告によつて追加会員として加入が認められ即日クーポンの交付を受けたが、同被告が原告に賦払金を支払うべき日は、購買日の翌月以降の毎月五日とし、支払場所は前同様に約定された。

六、しこうして、被告浜口政行が、原告の組合員である加盟店からクーポン又は特信券をもつて物品を購入し、これについて、同被告が原告に支払つた賦払金と、未払残債務額(賦払金の支払遅滞により割賦支払の期限の利益を失つている)は、別紙債務内訳書<省略>記載のとおりである。

そこで原告は、右未払残額である割賦購入あつせん金の支払を求むるため、被告浜口政行、同野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄の四名に対し連帯して債務残額金二七、三二〇円の内金二一、九二〇円につき、昭和三九年七月一日以降、また被告等五名に対し連帯して債務残額金二七、三二〇円の内金五、四〇〇円につき同年同月同日以降各完済に至るまで、百円につき一日金一〇銭の割合による約定の遅滞損害金を附加して、これが支払を求める。

七、ところで、割賦販売法は、その第二条において、「割賦販売」と「割賦購入あつせん」の定義を掲げ、第二章(第一節から第三節までに節を分け、第三条から第二九条まで)において割賦販売につき、また第三章(第三〇条から第三五条まで)において割賦購入あつせんについてそれぞれ規定し、第三章中、第三三条において割賦販売に関する規定のうち、割賦購入あつせんを業として営む場合に準用すべき規定を定めている。しこうして第三一条但書において、同法第八条第四号の団体については、通商産業省に備える割賦購入あつせん業者登録簿に登録を受けた法人でなくとも割賦購入あつせんを業として営むことを認めている。

八、原告は第一項において述べたように中小企業等協同組合法に基いて設立された法人であつて、割賦販売法第八条第四号イに規定されている特別の法律に基いて設立された組合であるから、通商産業省に備える割賦購入あつせん業者登録簿に登録をうけていないが、割賦購入あつせんを業として営み得るものである。従つて、原告が行う割賦購入あつせんについては割賦販売法第六条の規定が適用される余地はなく、また同法第三三条においても右第六条は準用されていないから、被告等の原告に対し負担する本件割賦購入あつせん金の未払残債務について、一〇〇円につき一日金一〇銭の割合による遅滞損害金の支払を求めることは、民法第四二〇条に規定する一般原則によつて有効である。

と陳述した。

立証<省略>

被告等五名は、

「原告の各被告に対する請求はこれを棄却する。」との判決を求め、

被告浜口政行は、

答弁として、

原告の主張事実中、被告浜口において、原告主張の日に、原告に対し、原告の会員として加入申込をしてその会員となつたこと及び原告発行のクーポン又は特信券により、原告主張の日に、原告主張の物品を、同主張の組合員たる加盟店から、同主張の金額で購入し、被告浜口の未払購入代金が、原告主張のとおり金二七、三〇〇円となることは認めるが、その余の事実は不知。

なお、原告主張の請求の原因第七項及び第八項は法律上の見解であり、被告浜口は法律上の知識に乏しいため、その見解の当否についての判断はできないので、これに対しては特に自己の意見は陳述しない。

しこうして、原告は被告浜口の未払購入代金債務について、昭和三九年七月一日以降完済に至るまで一〇〇円につき一日金一〇銭の割合による遅滞損害金をも請求しているが、被告浜口は、原告の会員として加入した当時は、かような延滞金の約定のあることは知らず、漫然と加入申込手続をしたにすぎないのであるが、会員申込書裏面記載の会員規定を見れば、右延滞金の規定があるので、今日においては右約定のあつたことについては強いては争わないが、原告の右延滞金の請求は不当であると思料する。

なお被告浜口は目下経済的に困難しているので、原告の本訴請求に対し、今直ちに応ずることはできない。

と述べ、

被告野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄、同河村弘は、

答弁として、

原告の主張事実中、被告野田、同白岩、同山崎、同河村が、原告主張の日に、原告の会員となり、会員相互が、原告の組合員である加盟店から、原告発行のクーポン又は特信券によつて物品を購入した代金の支払義務につき、連帯債務を負担する旨約定した事実は認めるが、その余の主張事実は不知。

仮りに被告浜口において、原告に対し幾許かの未払残債務があるとしても、原告主張のごとき数額である点はこれを争う。

なお原告主張の請求の原因第七項及び第八項の法律上の見解については、被告浜口と同様に、特に被告等の意見は陳述しない。

と述べた。<立証省略>

理由

第一、(原告組合の法人格及びその業務について)、

当事者間に成立につき争のない甲第四号証(証明願書ならびに証明書)及び証人藤原誠市の証言によれば、原告が、請求の原因第一項乃至第三項において主張するごとく、原告は中小企業等協同組合法第三条第一号に規定する事業協同組合として設立登記され、且つ割賦販売法第二条第三項において定義規定されている「割賦購入あつせん」を業として営む法人であることを認定することができる。

第二、(被告浜口政行に対する請求について)、

原告は、被告浜口はすでに原告の会員となり一団体を構成していた被告野田、同白岩、同山崎を含む会員団体の追加会員として、昭和三八年一一月七日に加入したと主張するが、被告浜口が、右追加会員として加入したとの事実については、後記第三項について詳細に判断するとおり、その事実を認めるに足る証拠はない。

しかしながら、原告の右主張には、もし被告浜口が右追加会員として加入したことが認められないときは、同被告は、追加会員ではない通常の会員として、原告の会員に加入したとの事実を包含するものと解せられるところ、被告浜口が昭和三八年一一月七日に原告の会員として加入した事実については、同被告において争わないところである。

しこうして、被告浜口が、原告の会員として、原告発行のクーポン又は特信券により、原告主張の日に、原告主張の物品を原告主張の組合員である加盟店から、原告主張の価額で購入し、被告浜口の現在の未払購入代金債務額が金二七、三〇〇円であることは、右被告においてこれを認めて争わないところであり、右当事者間に争のない事実によれば、被告浜口は、割賦販売法にいわゆる証票により特定の販売業者から商品を購入した「利用者」として、割賦購入あつせん業者である原告に対し、その購入証票に表示されている金額の未払額として、右金二七、三〇〇円の支払義務があることは明白である。

ところで、原告は、請求の原因第四項において主張する特約に基き、右被告に対し右未払額に、右被告が割賦支払の期限の利益を失つた日の翌日であると主張する昭和三九年七月一日以降完済に至るまで「遅滞損害金として、一〇〇円につき一日金一〇銭の割合による金員」を附加して請求するところ、当事者間に成立につき争のない甲第二号証記載の「会員規定」によれば、被告浜口が、前示認定のとおり原告の会員として加入した際、原告と被告浜口との間において、右主張のごとき特約が成立した事実を認定することができるが、右特約に基く原告の請求は法律上、許されるものかどうかについて検討する。

右甲第二号証の「会員規定」第一五条には「延滞金については金百円に付一日金十銭の割合に当る損害金及び諸費用を申受けます」とあるだけで、右文言自体からすれば、右「会員規定」中の如何なる支払の遅滞の場合における損害賠償額の予定であるか、必ずしも明確とはいえないが、この点については、しばらく原告の主張に従つて証票による購入代金である賦払金の支払遅滞についての損害賠償額の予定として推論することとする。

昭和三六年一二月一日に、その主要規定が施行された割賦販売法は、第二条において、「割賦販売」「指定商品」「割賦購入あつせん」につき、それぞれ定義規定し、同法施行前においては割賦購入あつせん業者が、購入者からその購入代金を受領する権能につき論議が分れていたのを立法的に解決したものといわれ、同法は、割賦購入あつせん業者と販売業者および購入者である「利用者」との間の、いわゆる三面関係を規定したのであるが、この場合においても、あつせんにかかる売買は購入者である「利用者」と販売業者との間に成立し、売買の目的物に隠れた瑕疵があつた場合の瑕疵担保責任が販売業者に在ることは、原告の自認するところであり、且つ割賦購入あつせん業者は、同法の規定により、右販売代金である購入証票表示の金額を「利用者」から受領するの権能を明らかにされたに止まり、「割賦購入あつせん金」名義をもつて、右販売代金とはその性質を異にする金員の請求権を特段に付与されたものと解することはできない。

しこうして、今日の社会一般の取引実例において、割賦購入あつせん業者が、「利用者」にあつせんする物品は、同法にいわゆる「指定商品」が圧倒的に多く、その代金の支払方法も割賦販売と同様に割賦支払が多いので、購入者である「利用者」側からみれば、割賦販売による購入と実質上何ら異る点のないことは、当裁判所に顕著な事実である。

もつとも、割賦購入あつせん業者が一般にあつせんしている物品は、割賦販売法にいわゆる「指定商品」よりも広範囲にわたり、右「指定商品」である耐久性を有し、且つ定型的な条件で販売するに適する物品だけではなく、燃料、飲食品等の一時的消費資材や、理髪、美容、タクシー等のサービス業種にまで及び「割賦販売」の範囲から「割賦支払」の領域にまで拡張されていることも、当裁判所に顕著な事実であるから、割賦販売法第二章の「割賦販売」に関する諸規定の全部を、「割賦購入あつせん」にかかる取引に、そのまま適用することは不可能であり、またその適用のないことも明白ではあるが、割賦購入あつせんの場合においても、そのあつせんにかかる目的物件が、同法にいわゆる「指定商品」に該当し、その賦払金の支払方法が、二月以上の期間にわたり、三回以上に分割して行われる場合においては、同法に規定する「割賦販売」に実質上準ずるものとして、同法第二章中、第五条及び第六条のごとき規定は、明文はなくても、同法の合目的解釈上当然に準用すべきものと解されるし、このように解してこそ、同法第一条の「取引を公正にする」精神にかなうものと思料する。この場合において、販売業者は、利用者から受領した証票を割賦購入あつせん業者に提出すれば、その証票と引換えに、若干の手数料ないし金利に相当する金額を差引き、購入に利用された証票表示の金額を、間もなく、割賦購入あつせん業者から交付されるので、右販売業者側からみれば、一応現金販売に準ずるごとくにもみられるが、右差引金額を考慮すれば、販売業者の受領するその金額の実質的経済価値は、割賦販売により賦払金を購入者より二月以上の期間にわたり三回以上に分割して、直接受領する場合とさして異るところはないはずであり、従つて、右販売業者からみるも、実質上割賦販売に準ずるものとして取扱うも不合理ではないというべきである。

原告は、割賦販売法は、第二章において「割賦販売」につき規定し、第三章において「割賦購入あつせん」につき規定し、且つ第三章中第三三条において「割賦販売」に関する規定のうち「割賦購入あつせん」を業として営む場合に準用すべき規定を定めておりながら、第六条はその準用条文に含まれていないから、割賦購入あつせん業者のあつせんにかかる取引には、右第六条は適用の余地なく、その準用もないと強調するのであるが、周知のごとく、割賦販売法施行前においては、割賦購入者は、代金を割賦支払でする気兼ねや遠慮から、割賦販売業者側からの、契約の解除、期限の利益の喪失、既払の賦払金の没収等の苛酷な条件を心ならずも承諾するのほかなかつた事例に鑑み、割賦販売法が制定されて、割賦購入者保護のための諸規定を設けられたものであり、同法中、第五条及び第六条の規定は、特にその保護規定の主要部分をなすものであるから割賦購入あつせん業者のあつせんにかかる取引であつても、実質上、割賦販売の場合と同様の条件即ち、目的物件は、同法にいわゆる「指定商品」に該当し、賦払金も二月以上の期間にわたり、三回以上に分割してなさるるものは、右第五条及び第六条の規定の準用があるものと解しなければ不合理であり、原告が強調する前示主張は同法第一条において、「割賦販売」と「割賦購入あつせん」を併わせ掲げ、目的及び運用上の配慮をうたつた精神を没却したものというべきである。

さて、本件について考えるに、前記認定のとおり被告浜口において購入した物品として、原告と右被告間に争のない別紙「被告浜口政行購入明細書」<省略>記載の品目は、いずれも割賦販売法にいわゆる「指定商品」である「衣類」「身回品」「はきもの」「家具」に該当するものであり、且つ前記甲第二号証及び当事者間に成立につき争のない甲第十九号証(入金明細書)によれば、その賦払金の支払方法は、

(1)、昭和三九年三月に購入した分は、同年四月三〇日を第一回として昭和四〇年一月三〇日までの一〇回払、

(2)、昭和三九年四月に購入した分は、同年五月三〇日を第一回として、昭和四〇年二月二八日まで(支払日は毎月三〇日の約定につき、二月はその応当日なきをもつて、民法第一四三条第二項但書により二八日)の一〇回払、

(3)、昭和三九年五月に購入した分は、同年六月三〇日を第一回として、同年一〇月三〇日までの五回払、

の約定であつた事実を認定することができるから、被告浜口の右購入は、いずれも実質上割賦販売による購入に準ずるものとして割賦販売法第五条及び第六条の準用があるというべきである。

してみると、原告は、右被告に対し、二〇日以上の相当な期間を定めて遅滞にかかる賦払金の支払を書面をもつて催告したことを主張立証せず、被告浜口が昭和三九年七月になすべき賦払金の支払を怠つたとして、直ちに割賦支払の期限の利益を失わしめ、昭和三九年七月一日現在においては、支払期限未到来の前記未払残損金二七、三〇〇円の全額につき、同日以降完済に至るまで遅滞損害金を請求するのは、右場合に準用さるべき割賦販売法第五条の強行規定に違反するものとして、不当であることは明白である。

且つ、原告は右遅滞損害金の率を一〇〇円につき一日金一〇銭の割合により請求するところ、割賦販売法第六条は民法第四二〇条の特別規定なるにつき、右第六条の準用により法定利率を超ゆる遅滞損害金を請求することは許されないことは、同条が強行規定たる点に鑑み明かであるから、商事法定利率年六分を超ゆる部分は、排斥を免れないところである。なお証人藤原誠市の証言によれば長崎県下において、協同組合組織による割賦あつせん業者は、大村市、諫早市、平戸市、壱岐郷ノ浦町にそれぞれ一組合ずつ存在するが、原告制定の会員規定のごとく、賦払金遅滞の場合における延滞金の特約規定を設けている組合はなく、また、株式会社組織による割賦あつせん業者は、長崎市、島原市にそれぞれ存在するが、これまたかような延滞金の特約規定を設けたものはなく、同県下において、ひとり原告組合だけが、日歩一〇銭という高率苛酷な、割賦販売法第六条の規定に違反する延滞金の特約規定を設けているものであることを推認することができる。また、余論ではあるが、右証人の証言によれば、原告は組合員である加盟店に対しては、販売した日の翌月一五日に、証票と引換えに、証票に表示された金額を一括して立替え支払うのであるが、この場合、原告は三回又は五回払(三月又は五月払)の場合は、右金額の五分、一〇回払(一〇月払)の場合は、右金額の八分に相当する額を立替え手数料として差引き交付する事実が認められるところ、原告が、右販売店に交付するのは、販売した日の翌月一五日であるから、右差引額を立替金額の利息(若干は集金手数料の趣旨をも含むではあろうが)として計算してみるときは、実質上の立替期間、約二月ないし四月間で五分、約九月間で八分となり、一方では販売の日の翌月から、すでに購入者の賦払金が、月々入金して来る建て前であるから、その実質的利回は、右短期間に五分又は八分の二倍を超ゆる相当な高率というべきであつて、この上になお購入者に対し、割賦販売法第六条の規定を超ゆる高率苛酷な延滞金を請求するということは、原告が中小企業等協同組合法第一条にいわゆる、公正な経済活動の機会を確保することを目的の一つとする協同組合であり、その組合の行う事業なる点においても、その不当性を免れ得ないと解すべきである。

以上の理由により、原告の被告浜口に対する本訴請求中、同被告との間において争のない同被告の本件賦払金の未払残額金二七、三〇〇円および前示甲第十九号証により認定されるところの

(1)、金四、〇八〇円については約定支払期限の翌日である昭和三九年七月三一日以降、

(2)、金四、〇八〇円については右同、同年八月三一日以降、

(3)、金四、〇八〇円については右同、同年一〇月一日以降、

(4)、金四、〇八〇円については右同、同年一〇月三一日以降、

(5)、金三、〇〇〇円については右同、同年一二月一日以降、

(6)、金三、〇〇〇円については右同、同年一二月三一日以降、

(7)、金三、〇〇〇円については右同、昭和四〇年一月三一日以降、

(8)、金二、〇〇〇円については右同、同年三月一日以降、

各完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅滞損害金の支払を求むる限度においては正当として、これを認容するが、その余の請求は失当として、これを棄却する。被告浜口は「当被告は目下経済的に困難しているので、原告の本訴請求に対し、今直ちに応ずることはできない」というが、原告の本訴請求中、右認定の正当な部分については、同被告は、かような事由をもつて、右請求を拒否することはできないことは条理上当然である。

第三、(被告野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄に対する請求について)

当事者間に成立につき争のない甲第一号証(会員申込書)及び証人藤原誠市の証言によれば、訴外不二産興株式会社佐世保営業所に勤務する荒石忠雄外九名(この中には、本件被告野田定、同白岩鉄治、同山崎幸雄を含む)が、一団体を構成し、その代表者を訴外荒石忠雄と定めて、割賦購入あつせん業者である原告に対し、原告の発行する証票を利用して、原告の加盟店から物品を購入する会員として加入申込をなし、原告からその発行にかかる証票であるクーポンを昭和三八年一〇月一五日に交付されて会員となり、その団体会員の賦払金支払期日を購入した日の翌月以降毎月「二八日」と定め、支払場所は佐世保市上京町六三番地武富ビル内、不二産興株式会社佐世保営業所とする旨の約定が、原告と、前記被告三名を含む右団体の会員等との間に成立した事実を認めることができ、右事実中右日時に、右被告三名が原告の会員として加入した事実については、同被告等においても、これを認めるところである。

原告はすでに原告の会員にして、被告野田、同白岩、同山崎を含む右団体の追加会員として被告浜口が昭和三八年一一月七日に加入したと主張し、証人藤原誠市の証言中には、原告の右主張事実に副う部分があるが、同証言によるも、同人は被告浜口が原告の会員に加入する際その手続に直接関与したことはないというのであるから、当事者間に成立につき争のない甲第二号証(会員申込書)の記載と対照して、前記証言部分は信用し難く、その他に被告浜口が、前記団体の追加会員として加入した事実を認めるに足る証拠はない。即ち原告において、被告浜口の右追加会員としての加入申込書であると主張する甲第二号証には右被告が、前記団体の追加会員として加入する旨の記載は全然なく、前記基本団体の加入申込書であると原告において主張する前記甲第一号証の記載と対照してみても、甲第二号証が追加会員申込書であることを肯定するに足るものはないというべきである。もつとも右両証中、代表者の氏名が「荒石忠雄」、番号欄が「七〇八一」となつて、両者共通し、会員の頭書番号が、甲第一号証は「1ないし10」までで、甲第二号証中、被告浜口の頭書番号は「11」となり、両者の関連性をやや想像されるようではあるが、右番号欄は原告において勝手に記入しうるものであり、代表者「荒石忠雄」は甲第一号証の団体においても同人が代表者となり、甲第二号証においても、追加会員として明記していない以上、前者の団体とは別個に、右荒石忠雄と被告浜口が一団体を結成したものと認むべきであり、また被告浜口の会員番号が「11」とあるのも、原告において勝手に記入できるものであり、前者の団体の会員等は、後に加入した被告浜口が、何番の会員となるや何ら関知するところではなく、また右甲第一、二号証は原告が保管しているので、被告浜口が追加会員となつたとする会員番号を知る機会もなかつたはずである。且つ、右両証を対照すれば、甲第一号証の支払場所及び勤務先は「不二産興株式会社佐世保営業所」と記載してあるのに、甲第二号証には勤務先として、「不二産興KK」と記載してあるだけで、「佐世保営業所」の記載はなく、その所在地及び支払場所すら記入を欠いでおり、殊に当裁判所において、重視する賦払金の支払期日が甲第一号証は毎月「二八日」なるに、甲第二号証の支払期日は、毎月「三〇日」と記載してあつて、甲第二号証は、甲第一号証の団体の追加会員としての申込書とは到底考えられないところである。且つ、右甲第一、二号証記載の会員規定第一条には「五人内外を一組として一団体を作り」と規定してあるところ、甲第一号証の団体はすでに一〇名の会員があり、右標準人員の二倍である。また、右会員規定第一三条には「会員は当組合に対するすべての債務について、俸給、給料、手当、賞与、退職金等勤務先その他から受取るべき金員から控除して債務に充当されても異議を称えることは出来ません」と規定してあつて、右規定は、労働基準法第二四条の給料直接支払の強行規定に違反する無効のものではあるが、原告の会員が一団体を構成する際、その代表者には、勤務先の管理職者又は会計責任者等を選定して、同一職場における給与等の支給日の機会を利用して、代表者において即日、賦払金を購入した会員から徴集してもらえるという安心感ないし信頼感が大きな裏づけとなつて、一団体を構成し、その相互が連帯責任を負担しているものと考えられるから、前示のとおり、この重要な「支払期日」を異にすれば、その会員は構成団体を異にすると一応推定すべきであると考える。なお、右会員規定第三条には「追加会員となろうとする者は便宜上申込書に代表者と共に連署して入会手続を致します。云々その組の全員がお互に連帯義務を負うものとします」と規定してあるところ、この点につき原告は、「追加会員となろうとする者は、申込書に代表者と共に連署して入会手続をとることができ、この者が原告の承認を得たときは、基本団体の会員全員が、右追加会員の賦払金支払義務につき、連帯債務を負担する」旨、主張するが、右会員規定第三条は、その文言自体からしても、原告の右主張のごとき不合理な解釈を許すべきではないと思料する。即ち右第三条に「便宜上」とある趣旨は、本来ならば、基本団体の会員全員と共に連署又はその承諾書を添付して追加会員としての申込手続をなすべきであるが、便宜上、代表者と追加会員申込者だけが、申込書に連署するけれども、その者が追加会員となるについては、原告の承認だけでは足らず、基本団体の会員全員の承諾を得た上でなければ、追加会員となり相互に連帯債務を負担させることはできないものと、解すべきである。従つて、仮りに甲第二号証が原告の主張のごとく、被告浜口の追加会員申込書であつたとしても、基本団体の会員である被告野田、同白岩、同山崎三名が、被告浜口の追加会員申込につき承諾していることを原告において主張、立証しない限り、右被告三名に対し、被告浜口の原告に対する本件賦払金未払残額債務の連帯責任を訴求することは許されないことは条理上当然であるところ、原告はこの点について、右被告三名の承諾を得たことについては何らの主張立証をもしていないのである。

してみると、被告浜口が追加会員として加入したことを前提とし、被告野田、同白岩、同山崎の三名が、被告浜口の原告に対する本件賦払金未払残額債務につき、連帯債務を負担したと主張して、右被告三名にその連帯支払を求むる原告の本訴請求は、その理由がなく失当なることは明白をもつて、全部これを棄却する。

第四、(被告河村弘に対する請求について)

原告は、被告河村はすでに原告の会員となり一団体を構成している被告野田、同白岩、同山崎の三名を含む団体の追加会員として、被告浜口と同様に、昭和三九年五月七日に、原告の会員に加入したと主張し、証人藤原誠市の証言中には、右主張に副う部分があるが、同証言は信用することができず、また前記第二項において認定したとおり、右団体の追加会員さしてではなく原告の通常会員として加入したと認められる被告浜口と同一団体の追加会員として、被告河村が加入したことを認めるに足る証拠もないから、被告河村は、被告浜口の原告に対し負担する本件賦払金未払残額債務につき連帯債務を負担したものということはできない。

即ち、原告において、被告河村の右追加会員としての申込書であると主張する当事者間に成立につき争のない甲第三号証には、右被告が追加会員として加入する旨の記載は全然なく、同記載中、前記甲第二号証の記載との関連性を求むれば、代表者の氏名「荒石忠雄」と番号欄の「七〇八一」とが共通である以外に、被告河村が、被告浜口の属する会員団体の追加会員として加入申込をしたことを認むるに足る記載はない。特に甲第三号証記載の支払期日は毎月「五日」となつていて、甲第二号証の支払期日と日を異にしているので、前記第三項において詳細に証拠判断をしたところと同様の理由により、被告河村は、購入者本人である被告浜口の構成する会員団体の追加会員として加入したことを認むるに足る証拠はないことに帰するから、被告浜口が原告に対し負担する前記の本件賦払金未払残額債務につき、被告河村は連帯責任を負担していないというべきである。してみると、被告河村が、右追加会員として加入し、且つ右債務につき連帯債務を負担したことを前提とする原告の被告河村に対する本訴請求もまた失当であることは明白なるをもつて、全部これを棄却する。

第五、(訴訟費用の負担について)

本件訴訟費用中、原告と被告浜口との間において生じた部分は、民事訴訟法第九十二条但書を適用して、その全部を右被告の負担とし、原告とその余の被告四名との間において生じた部分は同法第八十九条を適用して、その全部を原告の負担とする。

第六、(仮執行の宣言について)

原告の被告浜口に対する本訴請求中、正当としてその請求を認容した主文第(一)項については、民事訴訟法第百九十六条第一項を適用して、原告において金九千円の担保を供したときは仮りに執行することができるものとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 竜田義光)

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